英国ナショナル・トラストヘのスタディツアー報告
1996年.7月24日〜8月1日
 

 1996年7月24日〜8月1日までの日程でイングランド西部と北部、そしてロンドン市近郊の3つの地域にある、THE NATIONAL TRUST保有のプロパティ(所有財産)の、ごく一部を見学し、併せて英国の市民生活の雰囲気を味わおうという目的で、このスタディツアーが催された。

 最初に訪れたのは、大口ンドンの北部高級住宅街HAMPSTEADにあるFENTON HOUSEであった。地下鉄のHAMPSTEAD駅から300mのところに位置するので、当初、地下鉄(UNDERGROUND)を利用するつもりだったが、この日はあいにくのストライキで終日運休であった。 パスの交通は頻繁にあるようだったが、バス停の場所探しや行き先の確認がおっくうだったのと午後2時頃になっていたので見学時間の確保の意味から、移動時間を短縮するためにタクシーを利用した。
 この建物FENTON HOUSEは17世紀後半に建てられたものであり、この地域(HAMPSTEAD)での最も古い建物の一つで、且つ当該時代で最も大きな建物である。建物の名称であるFENTONHOUSEは18世紀末頃の所有者であるPhilip FENTONに由来している。建物の中には、珍しい磁器や様々な形の沢山の初期のキーボード(鍵整楽器)が収集展示されていて、訪れる人々を楽しませている。狭い部屋の隅っこに合わせて造った、三角定規のような形状のものや台形の形をしたキーボードを見たのは初めてであった。  
 また、建物を取り巻く庭園は、よく手入れが行き届いており散歩やひなたぼっこをするのに格好の場所になるだろうと感じた。、ここの事務所で、私達は、THE NATIONALTRUST(以下「NT」)に入会し、会員となった。年会費£26を支払った。(1£は、約180円)約一ケ月後に会員カードが住所地に送られてくる。このカードを持っていると、カードの有効期限内であれば、全てのNTのPROPERTYの入場料は、無料(特別な催し物などは除外される場合もある)となる。カードが送られてくるまでの間は、会賛納入の領収書を持っていれば、カードと同じ効果で無料となる。
 古きHAMPSTEADの風情を伝える建物BURGH HOUSEを経て「2 WILLOW ROAD」に行った.FENTON HOUSEからBURGH HOUSEまでは、徒歩で10分余り。BURGH HOUSEから「2 WILLOW ROAD」まで、やはり歩いて10分位の距離であったと思う。思うという意味は、実をいうと「2 WILLOW ROAD」の建物の前を通り越して5〜10分程歩いてから、道に迷ったことを悟って引き返したからであった。
 NTのPROPERTYとしての「2 WILLOW ROAD」は、道路の意味ではなく、保有建物の名称である。高さ50cm程の低い石の壁に小さな標示板があるだけで、古い共同住宅という以外強い印象はなく、つい、それとは解らずに通り過ぎてしまったのである。
 この建物は、英国の著名な建築家ゴールドフィンガーーの設計によるものであり、1939年に建てられた。11棟に3戸が収容されている3階建ての真ん中の部分だけが、NTのPROPERTYとなっている。ゴールドフィンガーが1987年に亡くなるまで、この中央部分の区画に彼の家族と共に住んでいた。また、1991年までは、未亡人となった彼の妻と家族が居住した場所である。ここには、ゴールドフィンガーが設計した家具と彼の妻が収集した様々な芸術作品が、展示と言うよりはむしろごく自然に部屋のなかに置かれてある。

 そして、1階部分のガレージを改装したような空間(入口の扉に向かって右側のドアの中)では、ゴールドフィンガーの仕事を紹介するビデオが、適宜上映されている。訪問した時刻が遅く、午後4時過ぎだったので、この施設を案内してくれる人は、もう帰宅した後だった。また、既に閉館時刻になっていたから入館も一度は断られたが、日本から来たことを告げると、ゴールドフィンガーを紹介するビデオを見せていただき、その後1階から3階までの部屋の中を自由に歩き回ることを許可して頂いた。
 午後5時頃、係の若い女性にお礼を言って建て物からでた。幅員6m程の道路を渡って向かい側にある公園からもう一度、「2 WILLOW ROAD」の建て物の全体を眺めた後、歩いて10分程のバスターミナルの近くからタクシーに乗って、地下鉄GLOUCESTER ROAD駅(PICCADILLY LINE〉近くのBAILY'S HOTEL(ロンドン滞在中の宿泊揚所)に戻った。
 次の日は、朝から出発して、イングランドの西部地域WILTSHIREにあるSTOURHEADやABEVURYなどを訪れた。
 1996年7月26日朝9時、このホテルの前にイングランド西部のコッツウォルズ地方(COTSWOLDS)へ出かけるため、予め手配しておいたハイヤーが1台停車していた。車種は、ジャガー。運転手と日本語で説明してくれるガイドが、既にスタンバイしている。

 コッツウォルズ地方とは、ロンドンの西50Kmの辺りにある標高150m〜250mのコッツウォルズ丘陵から東側の一帯を指す。この地方特有の良さは、古きイングランドの姿そのままの田舎の風景を残しているところである、と言われている。
 自然との調和の中に生活する村の人達の暮らしぶりを風景として眺めると共に、保全されている英国ナショナル・トラストのPROPERTYを現地に見る1日である。天気は快晴。この地方の町WILTSHIRE州にあるストアヘッド(STOURHEAD)が、この日の最初の目的地である。
 ロンドンからM3(MOTORWAY3−自動車専用道路)を西に向かい、そこからA303号線を通り更に西へ車を走らぜて、ストアヘッドに至るまでの計画走行距離は、125マイル(約200km)である。ロンドン市街地の中心部から西へ向かうと、道の両側には、テラスハウスの街並みが続いていた。家々の煙突の最上部には、小さな筒状の煙抜きの穴がついている。これが、チムニーポットである。このポットの数だけ暖炉があ
ることになる。2戸で1棟となつているテラスハウスであればその棟の真ん中に煙突の本体があり、煙突の頂部にはいくつかのチムニーポットのあるのが見えるのである.
 この繁った街並を過ぎると、M3に達する。M3走行中の窓外の景色は、なだらかな丘陵の連続である.日本ではどこを走っても、林立したビルの間でない限り必ず山が見えるのであるが、高速道路から見える景色の日本のそれと最も異なっているのは道路の近くにも、遠く地平線の辺りでも周辺には山々が見えないことだ。従って、コンクリートの土止め構造物が道路近くには見当たらず、樹木の連続か牧草地、又は畑が展開しているのである。WILTSHIRE州にはいって間もなく、ストーンヘンジを見物する人々を遠く右に眺めながらA303号線を西に走り、ストアヘッドに到達したのは午前11時半頃であった。

 ストアヘッドは、WILTSHIRE州の州境に近いとこうに位置していて、面積が約36haの広さであり池を中心に配置した風景式庭園である。 HENRY HOAREU(1705〜1785年)が、1741年にロンドンからこの地へ移り住むこととなり、そのときから彼の設計によってこの美しい庭園が造り始められたのであった。18世紀の芸術家が造り出した一つの芸術作品といわれている。
 ビジターセンターでパンフレットなどを物色した後、池の周りを1周することにした。最初に目を引きつけられたのは、セントピーター教会の傍らに建つTHE BRISTOL HIGH CROSSのモニュメントである。15世紀初期のBRISTOLの町で天に向かって直立して建っていた塔を、1762年にH.HOAREがここに建て替えたものである。1979年に一度崩壊したものの、5本の細いステンレスの柱で補強して再建されたのであった.
 THE HIGH CROSSを見上げながら歩き出した。案内図をよく見ないで池を右回りに歩き始めたが、その道では池の周囲を1周することはできず農家のプライベート所有地に入り込んでしまつた。偶然にもこのことにより、農家のたたずまいを教えてくれる村人と接する機会となった。尤もこの時間は、ごくわずかなものに過ぎない。元の道に戻り、今度は案内図を見ながら池の周りを左に回った。
 池の水辺やその周辺に生い茂る木々、パンテオン(ロ一マ様式)の白亜の建物が池の畔に建つている.自然と工作物とが風景の中にうまく溶け込んでいる。これだけの樹木や散策路、芝生などを維持管理するためには大変な仕事と責任があり、それを英国ナショナル・トラストが担っていることの大きな意義を感じた。
 池を一周した後、レストランで飲んだハーフパイン(スモールサイズ)のビター・ビールの味わいは、快いものであつた。昼食後、次の目的地LACOCK VILLAGEへ行くために駐車場から道路に出た。道端には青紫の花をいっぱいに付けたアジサイの池垣が続き、遠い道のりをはるばるやってきた人を見送つてくれているようであった。                    (M.KAWABATA)
(「KANTA通信・bP1&13より転載)